金銭トラブル、不倫慰謝料、ハラスメント問題――。現代の法的トラブルにおいて、「LINEのトーク履歴」は決定的な証拠となることがほとんどです。相手に法的措置を予告するために「内容証明郵便」を送る際も、このLINEの内容を根拠として主張を展開したいと考えるのは当然でしょう。
しかし、ここで大きな壁に直面します。内容証明郵便には、LINEのスクリーンショット(画像)をそのまま貼り付けることはできないという厳格なルールがあるからです。
郵便局が証明してくれるのはあくまで「文字情報」のみ。写真や図表は一切認められません。そのため、LINEの内容を証拠として主張したい場合は、トーク履歴を文字として「書き起こす(反訳する)」必要があります。
ところが、内容証明郵便には非常に厳格な「文字数・行数制限」が存在します。ただ漫然とLINEを書き写しただけでは、規定オーバーで郵便局の窓口で受理されず、突き返されてしまうのです。
本記事では、LINE履歴を内容証明郵便に記載するための正しい「書き起こし」テクニック、絵文字やスタンプの表現方法、そして絶対に守らなければならない文字数ルールの詳細について、徹底解説します。
なぜLINEのスクショはそのまま使えないのか?内容証明の仕組み
まず、大前提となるルールを理解しましょう。「内容証明郵便」とは、日本郵便株式会社が提供するサービスであり、「誰が、いつ、誰に、どのような内容の文書を送ったか」を証明するものです。
証明されるのは「テキスト」のみ
このサービスで証明の対象となるのは「文書の内容(テキスト)」に限られます。添付ファイル、写真、図表、イラスト、そしてLINEのスクリーンショット画像などは、内容証明郵便の本文中に含めることができません。
もしLINEのスクショを見せたい場合は、内容証明郵便とは別に、普通の郵便(または簡易書留など)で「資料」として同封・別送するしかありませんが、その場合、郵便局は「その資料を送った事実」までは証明してくれません。
だからこそ、内容証明郵便の本文そのものに、「いつ、どのようなやり取りがあったか」を文章で記載し、相手に事実を突きつける(=言い逃れできなくする)作業が必要になるのです。
郵便局の窓口で出す場合の厳格な「文字数・行数」制限
内容証明郵便を自分で作成し、郵便局の窓口に持ち込んで発送する場合、以下の制限を1文字でも超えると受け付けてもらえません。LINEの長文を引用しようとして失敗する最大の要因がこれです。
縦書き・横書きの文字数ルール
用紙のサイズは自由(通常はA4)ですが、1枚に書ける文字数と行数は厳格に決まっています。
- パターンA:1行20文字以内 × 1枚26行以内(計520文字)
- パターンB:1行13文字以内 × 1枚40行以内(計520文字)
- パターンC:1行26文字以内 × 1枚20行以内(計520文字)
- 1行20文字以内 × 1枚26行以内(計520文字)
一般的には、読みやすさと情報量のバランスが良い「横書き:1行26文字 × 20行」の設定が使われることが多いです。しかし、たった26文字で改行しなければならないため、LINEの長いメッセージをそのまま引用すると、行数がかさみ、枚数が増えて料金が高くなる(2枚目以降は加算料金がかかる)というデメリットがあります。
文字カウントの特殊ルールに注意
文字数の数え方も独特です。間違えやすいポイントを押さえておきましょう。
- 記号・句読点:「、」「。」「%」「+」などもすべて1文字としてカウントします。
- 括弧:「(」と「)」はそれぞれ1文字です。セットで2文字消費します。
- 序列番号:「1.」「(1)」などは、文字数分だけカウントされます(特例でセットで1文字とみなす場合もありますが、安全を見て個別にカウントするのが無難です)。
- スペース:文中のスペースも1文字として扱われる場合があります(行末の余白はカウントしません)。
救世主!「電子内容証明(e内容証明)」なら制限が大幅緩和
「1行20文字なんて少なすぎて書けない!」「LINEのログを大量に引用したい」
そんな方に強くおすすめするのが、インターネットから発送できる「電子内容証明(e内容証明)」です。
e内容証明の圧倒的なメリット
e内容証明サービスを利用すれば、窓口出しのような厳しい「行数・文字数制限」からほぼ解放されます。
- 文字数・行数:厳密な制限はなく、「A4用紙1枚に収まる範囲」であれば自由です。
- フォントサイズ:最小10.5ポイント以上であればOK。
- 枚数:最大5ページまで。
つまり、Wordで普通に文書を作成し、指定の余白設定さえ守れば、1枚にかなりの情報量を詰め込むことができます。LINEのトーク履歴のような会話形式の文章を引用する場合、e内容証明を使うのが現代のスタンダードであり、最も効率的です。
LINEトーク履歴を「書き起こす」ための具体的書式テクニック
では、実際にLINEの内容をどのように文章化すればよいのでしょうか。単にコピペするだけでは、誰の発言かわからなくなります。以下のフォーマットを参考にしてください。
基本フォーマット:日時・発言者・内容
証拠としての価値を持たせるためには、「いつ」「誰が」「何を」言ったかを特定する必要があります。
令和〇年〇月〇日
【送信者】甲(あなた)
【内容】「来週までに貸した10万円を返してほしい」
令和〇年〇月〇日
【送信者】乙(相手方)
【内容】「ごめん、今は無理。来月末まで待って」
このように、ブロックごとに整理して記載します。e内容証明であれば、インデント(字下げ)を使って会話らしく見せることも可能です。
絵文字・スタンプ・画像の「テキスト化」方法
LINE特有の表現をどう文字にするかは悩みどころですが、裁判実務などで使われる「反訳(はんやく)」の手法を用います。
1. 絵文字の扱い
感情を表す重要な要素であれば、(笑)(怒)(泣)のように括弧書きで補足するか、無視しても文脈が通じるなら省略します。
例:「ふざけんな💢」 → 「ふざけんな(怒りの絵文字)」
2. スタンプの扱い
スタンプ単体で送られた場合、そのスタンプが持つ意味を客観的に記述します。
例:
【送信者】乙
【内容】(「了解」と書かれたウサギのスタンプ)
【内容】(土下座をして謝罪しているキャラクターのスタンプ)
3. 画像・動画の扱い
画像が送られた事実を指摘したい場合は、その旨を記載します。
例:
【送信者】乙
【内容】(他の女性と腕を組んで歩いている写真画像)
「既読無視」を主張したい場合
相手がメッセージを読んでいるのに無視している事実(既読スルー)を強調したい場合は、以下のように記述します。
「通知者(甲)は、令和〇年〇月〇日に上記メッセージを送信し、同日中に既読がついたことを確認しているが、被通知者(乙)からの返信は一切なかった。」
証拠能力を高める「引用」と「要約」の使い分け戦略
全ての会話を一字一句書き起こすと、文章が膨大になり、論点がぼやけてしまいます。また、内容証明郵便の料金も枚数に応じて高くなります。効果的なのは、「直接引用」と「要約」の使い分けです。
1. 「直接引用」すべき重要箇所
相手が債務(借金など)を認めた発言、不貞行為を自白した発言、脅迫的な発言など、「言質(げんち)」となる部分は、一字一句そのまま(「」を用いて)記載します。ここを要約してしまうと、「ニュアンスが違う」と反論される隙を与えてしまいます。
2. 「要約」すべき繋ぎの会話
挨拶や雑談、本題に至るまでの経緯は、要約して記述します。
例:「その後、数回にわたり返済期日の延期に関するやり取りがあった後、以下のメッセージが送信された。」
3. 前文への組み込みテクニック
LINEのやり取り自体を箇条書きにするのではなく、本文の流れの中に組み込む方法もスマートです。
「貴殿は、令和〇年〇月〇日のLINEメッセージにおいて、『来月の給料日には必ず全額返す』と明言し、債務の存在および返済義務を認めています。」
この書き方であれば、行数を大幅に節約しつつ、相手に「お前はこう言った」と突きつけることができます。
内容証明作成時の注意点とリスク回避
LINEの書き起こしを含む内容証明を作成する際、やってはいけないNG行動や注意点があります。
文脈の切り取り(チェリーピッキング)は避ける
自分に都合の良い一文だけを切り抜き、前後の文脈を無視して引用すると、後で裁判になった際に「前後の会話を見れば全く違う意味だ」と反証され、信用を失うリスクがあります。
相手の発言を引用する際は、その発言がなされた文脈(こちらの質問に対する回答なのか、冗談の流れなのかなど)を正確に反映させる誠実さが、結果として証拠能力を高めます。
プライバシーへの配慮
内容証明郵便は、郵便局員も目にする文書です。不貞行為の過激な性描写などを詳細に書き起こすことは、公序良俗の観点やプライバシー侵害のリスクを考慮し、必要最小限の表現に留めるか、「不貞行為を推認させる性的なやり取り」といった抽象的な表現に置き換える工夫も必要です。
よくある質問(Q&A)
最も重要な1〜2箇所のみを引用し、残りは「別送する資料(詳細なトーク履歴のプリントアウト)を参照されたい」と記載して、普通郵便や特定記録郵便で別途送りつける方法が一般的です。これなら内容証明の料金も抑えられます。
どうしても画像を送りたい場合は、内容証明郵便とは別に、もう一通別の封筒(簡易書留などを推奨)を用意し、「本書面は内容証明郵便の別添資料です」と書いた送付状と共にスクショを送ってください。内容証明の本文中に「別途、証拠画像を郵送した」と記載しておくと紐付けができて効果的です。
まとめ:書き起こしは「正確性」と「可読性」が命
LINEトーク履歴を内容証明郵便で活用するためには、単なるコピペではなく、郵便局のルールに則った「翻訳作業」が必要です。
- 窓口出しの場合は文字数・行数制限を厳守する(またはe内容証明を使う)。
- 「日時」「発言者」「内容」を明確に区別する。
- スタンプや絵文字は客観的なテキスト表現に置き換える。
- すべてを書かず、決定的な部分のみを引用し、残りは別送資料とする。
内容証明郵便は、相手に対する「宣戦布告」とも言える重要な文書です。形式不備で郵便局から突き返されたり、内容が曖昧で相手に舐められたりしないよう、正しいルールでビシッと決めることが解決への第一歩となります。
もし、文章の構成やe内容証明の操作に不安がある場合は、行政書士などの専門家に作成代行を依頼するのも一つの賢い手段です。

