介護施設から突然退去を迫られた|不当な退去要求に内容証明で対抗する方法【家族向け・行政書士解説・サンプル文付き】

介護施設から突然退去を迫られた|不当な退去要求に内容証明で対抗する方法【家族向け・行政書士解説・サンプル文付き】

「施設から突然『来月中に出ていってほしい』と言われた」「認知症が進んだからと退去を迫られているが、次の行き先がない」「家族の対応が悪いという理由で退去を求められた」

老人ホーム・介護施設からの退去要求は、高齢の親を抱えた家族にとって、突然降りかかる深刻な問題です。しかし、すべての退去要求が法律上有効なわけではありません。正当な理由がなければ、入居者には退去を拒否する権利があります。

この記事では、施設からの不当な退去要求に内容証明で対抗する方法・確認すべき法的根拠・サンプル文を行政書士が実務解説します。

施設が退去を要求できる「正当な理由」と「不当な理由」

施設からの退去要求が「正当」か「不当」かを判断する最初の基準は、入居時に締結した契約書・重要事項説明書に定められた退去事由に該当するかどうかです。

✅ 正当な退去事由(一般的な例)
  • 利用料の長期滞納(概ね3か月以上)
  • 入居者による他の入居者・職員への暴力・著しい迷惑行為
  • 施設が対応できない高度な医療処置が常時必要になった(*転居先支援義務あり)
  • 契約書に明記された特定の事由
❌ 不当な退去要求(これは認められない)
  • 「家族の態度が悪い・クレームが多い」
  • 「職員と合わない・人間関係が難しい」
  • 「認知症が進んだから」(契約書の退去事由に該当しない場合)
  • 「施設の都合(人員不足・改装等)」
  • 契約書に定めのない理由による退去要求
⚠️ 「高度医療が必要」を理由とする場合の注意点

入居者の状態変化(認知症の進行・身体機能低下等)を理由とする退去要求は、施設側が安易に行うことはできません。施設には転居先を探す協力義務があり、次の受け入れ施設が確保できていない状態での一方的な退去要求は問題があります。

退去要求を受けたらまず確認すること

感情的に対応する前に、以下を冷静に確認します。これが対抗するための土台になります。

1
入居契約書・重要事項説明書を取り出す

入居時に受け取った書類一式を確認します。「契約解除・退去」の条項(退去事由・手続き・猶予期間)が記載されているはずです。施設側の主張する退去理由が、この条項のどれに該当するか照合します。

2
退去要求を「書面」で求める

口頭での退去要求は証拠になりません。施設に対して「退去要求の理由と根拠を書面で示してほしい」と要求します。書面化を嫌がる施設は、それ自体が不当退去要求の証拠になります。

3
やり取りをすべて記録する

施設スタッフとのやり取りの日時・担当者名・内容をメモします。可能であればICレコーダーで録音します(事前告知なしの録音は証拠としては使えますが告知ありの方が安心です)。

4
施設の運営法人名・本部住所を確認する

内容証明の送付先は「施設の運営法人の代表者・本部住所」です。重要事項説明書・法人ホームページ・介護サービス情報公表システムで確認します。

施設の退去要求を縛る法的根拠

📖 介護保険法・指定基準(特定施設)

特定施設入居者生活介護の指定を受けた施設(多くの有料老人ホーム・グループホーム等)では、契約解除の通知から少なくとも30日間の猶予期間を設けることが指定基準で義務付けられています。

また施設は、退去後の受け入れ先確保の相談・援助義務を負います(指定基準第192条等)。次の施設が見つからないまま一方的に退去を求めることはこの義務違反になります。

📖 消費者契約法第10条

契約書に定める退去事由が「消費者の利益を一方的に害する」内容の場合、その条項は無効になります。たとえば「施設の判断で退去を求めることができる」などの白紙委任的な条項は消費者契約法上問題がある場合があります。

📖 老人福祉法・高齢者虐待防止法

不当な退去強制は、高齢者の生活の場を奪う行為として高齢者虐待防止法上の「経済的虐待」または「放棄・放任(ネグレクト)」に該当する可能性があります。都道府県・市区町村は施設への立入調査権限を持っています。

内容証明が有効な理由と使い方

施設からの退去要求に内容証明で対抗する方法は2段階あります。

「法的根拠の開示を求める通知」を送る

まず「退去を求める具体的な法的根拠・契約書上の根拠条項・猶予期間の設定・転居先支援の内容を書面で示してください」という通知を内容証明で送ります。施設側が正式な回答を出せない場合、その退去要求は法的に根拠がないことが明らかになります。

「退去要求に応じない旨の通知」を送る

施設側の根拠が不十分・不当と判断した場合、「退去要求は法的根拠を欠くため応じられない」という通知を内容証明で送ります。これにより施設側は「正式に拒否された」という記録が残り、強制退去に向けた一方的な行動を牽制できます。

✅ 内容証明が特に有効な3つの効果
  • 施設側への法的プレッシャー:運営法人の本部・顧問弁護士が動き、現場任せではなく組織的な対応になる
  • 都道府県・市区町村への申告の証拠:内容証明を送った記録が「正式に抗議した事実」として行政申告に活用できる
  • 時間稼ぎ・転居先探しの余裕を生む:法的手続きの時間軸が延び、次の入居施設を探す時間を確保できる

行政書士が「できること」と「できないこと」

✅ 行政書士にできること
  • 施設・運営法人への退去要求根拠開示を求める通知書の作成・発送
  • 不当退去要求に応じない旨の通知書の作成・発送
  • 運営法人の正式名称・代表者名・本部住所の特定サポート
  • 施設からの回答書への対応文書作成
  • 弁護士・市区町村(介護保険課)への橋渡し
❌ 行政書士にできないこと(弁護士・行政機関の領域)

施設との直接交渉の代理、退去差止の仮処分申立、損害賠償請求訴訟の代理は弁護士の業務範囲です。施設側が強制的な退去執行を示唆する場合は、緊急で弁護士に相談してください。行政への立入調査申請は市区町村・都道府県の権限です。

内容証明の書き方・2パターンのサンプル文

パターン①:退去根拠の開示を求める通知書(最初の一手)

📄 退去根拠開示要求通知書 サンプル文

     退去根拠開示要求通知書


 私、○○○○(以下「通知人」といいます)は、貴法人が運営する○○施設(以下「貴施設」といいます)に入居中の父○○○○(以下「入居者」といいます)の家族として、以下のとおり通知します。



一 令和○年○月○日、貴施設スタッフ○○氏より、入居者に対し「○月末日までに退去してほしい」との口頭による申し出がありました。しかし、退去理由の具体的な説明および契約書上の根拠条項の提示は一切なされませんでした。


二 入居者と貴施設の間で締結した令和○年○月○日付け入居契約書第○条によれば、施設側からの契約解除(退去要求)が認められる事由は限定的に定められており、現時点において該当する事由があるとは確認できません。


三 つきましては、本書到達後14日以内に以下の事項について書面にてご回答ください。
 (一)退去を求める具体的な理由および入居契約書上の根拠条項
 (二)介護保険法指定基準に基づく30日以上の猶予期間の設定
 (三)転居先の確保に向けた施設側の援助内容
 期限内に書面による回答がない場合は、退去要求に法的根拠がないものと判断し、都道府県・市区町村への行政申告を行うことを予告します。


    令和  年  月  日

 通知人 住所 ○○県○○市○○
     氏名 ○○○○ 印


社会福祉法人○○ 理事長 ○○○○ 殿

パターン②:退去要求への異議通知書(根拠が不当と判断した場合)

📄 退去要求異議通知書 サンプル文

      退去要求異議通知書


 私、○○○○(以下「通知人」といいます)は、貴法人が運営する○○施設(以下「貴施設」といいます)に対し、以下のとおり異議を申し立てます。



一 令和○年○月○日付けにて、貴施設より入居者○○○○に対し、「○○を理由として令和○年○月○日までに退去されたい」旨の通知を受けました。


二 しかし、貴施設の示す退去理由「○○」は、入居契約書第○条に定める退去事由のいずれにも該当せず、また介護保険法指定基準が定める30日以上の猶予期間の設定もなされておりません。さらに転居先の確保に向けた援助も一切ご提示いただいておりません。


三 以上の理由から、今回の退去要求は法的根拠を欠く不当なものと判断せざるを得ません。通知人は本退去要求に応じることはできません。


四 貴法人においては、入居契約上の義務を誠実に履行されるよう求めます。不当な退去強制が継続される場合は、都道府県・市区町村への行政申告・介護保険審査会への申立・損害賠償請求を含む法的措置を講じることをここに予告します。


    令和  年  月  日

 通知人 住所 ○○県○○市○○
     氏名 ○○○○ 印


社会福祉法人○○ 理事長 ○○○○ 殿

⚠️ 施設への対応で悪化しないか心配な方へ

内容証明を送ることで施設側の親への対応が悪化するリスクを心配される方は多いです。しかし、施設側も「記録が残っている」と認識するため、むしろ慎重な対応になる傾向があります。それでも心配な場合は、市区町村の高齢者相談窓口・地域包括支援センターにも並行して相談することで、行政の目も入った状態を作ることができます。

送った後どうなる?3パターンと次の手段

✅ パターンA:施設が正式な回答・対応をした

退去理由の説明・猶予期間の設定・転居先探しの支援が提示された場合。内容が不満でも「書面での回答がある」ことは前進です。回答内容を精査し、必要に応じて行政書士または弁護士と相談しながら対応します。

⚠️ パターンB:形式的な回答のみ・変化なし

市区町村の介護保険課・地域包括支援センターへの相談・申告へ移行します。行政が立入調査を行うことで施設側の対応が変わるケースがあります。弁護士への相談もこのタイミングで検討します。

🚨 パターンC:強制退去を執行しようとしている

緊急事態です。即座に弁護士に相談し、退去差止の仮処分申立を検討します。内容証明を送った記録が「事前に正式抗議した証拠」として裁判所でも機能します。並行して市区町村・都道府県への緊急申告を行います。

📞 並行して相談できる公的窓口
  • 市区町村の介護保険課・高齢者相談窓口:施設への立入調査権限あり
  • 地域包括支援センター:高齢者の権利擁護・相談支援の一次窓口
  • 都道府県の介護保険審査会:保険給付・指定取消に関する申立
  • 国民健康保険団体連合会(国保連):介護サービスへの苦情申し立て
  • 法テラス:弁護士費用が払えない場合の法律相談・費用立替制度

よくある質問(FAQ)

Q 介護施設からの退去要求に内容証明で対抗できますか?
A

できます。施設側からの退去要求が契約書・重要事項説明書に定める退去事由に該当しない場合、入居者(家族)は退去を拒否する権利があります。内容証明で「退去要求の法的根拠を示すよう求める通知」または「不当な退去要求に応じない旨の通知」を送ることで、施設側に正式な対応を迫ることができます。

Q 施設が退去を要求できる正当な理由とはどんなものですか?
A

契約書・重要事項説明書に定められた退去事由が原則です。一般的には①利用料の長期滞納②他の入居者・職員への暴力・著しい迷惑行為③施設が対応できないレベルの医療ケアが必要になった場合等です。「家族の態度が悪い」「職員と合わない」「施設の都合」などは正当な退去事由にはなりません。

Q 退去要求を受けてから退去までどのくらいの猶予期間がありますか?
A

特定施設入居者生活介護の指定を受けた施設では、契約解除の通知から少なくとも30日間の猶予期間が必要とされています(介護保険法・指定基準)。「今すぐ出て行け」という即時退去要求は原則として認められません。また施設には転居先を探す協力義務があります。

Q 内容証明を送った後も退去を強制された場合はどうなりますか?
A

施設が不当に入居者を強制退去させた場合、損害賠償請求の対象になります。また都道府県・市区町村への行政申告・介護保険審査会への申立が可能です。物理的な強制退去の執行が示唆される場合は緊急の仮処分申立が必要なため、即座に弁護士へ相談してください。

Q 行政書士に依頼した場合の費用はいくらですか?
A

書面作成+発送代行プランは¥19,800(税込)からです。LINEにて無料相談も承っています。施設・運営法人の特定サポートも含めて対応します。

📋 この記事のまとめ
  • 施設が退去を要求できるのは、契約書・重要事項説明書に定める退去事由に限られる
  • 「家族の態度が悪い」「職員と合わない」「施設の都合」は正当な退去事由にならない
  • 特定施設では退去通知から30日以上の猶予期間と転居先探しの協力義務がある
  • まず「退去要求の法的根拠の開示を求める通知」を内容証明で送るのが最初の一手
  • 根拠が不当と判断した場合は「退去要求に応じない旨の異議通知書」を送付する
  • 運営法人の特定:重要事項説明書・介護サービス情報公表システムで確認
  • 施設対応への悪化が心配な場合は市区町村・地域包括支援センターにも並行相談
  • 強制退去が執行されそうな場合は緊急で弁護士へ。内容証明が事前警告の証拠になる

執筆者情報

執筆者の顔写真

深沢文敏

内容証明専門家・行政書士

行政書士登録番号:第14130403号

【略歴・実績】
一部上場企業を退職後、行政書士として独立。内容証明郵便の作成支援において10年以上のキャリアを持ち、
年間200件以上、累計数千件の相談に対応。

【得意分野】
男女関係の慰謝料請求、個人・法人の金銭トラブル、契約解除、ビジネス法務。 単なる書面作成に留まらず、
上場企業出身の経験を活かした「戦略的な文面構成」と、法的根拠に基づく的確なアドバイスに定評がある。

【メッセージ】
内容証明は「出すこと」がゴールではありません。相手にプレッシャーを与え、円満かつ迅速な解決へ導くための「初手」です。
迅速なレスポンス(7:00〜23:00対応)と、初めての方でも安心できる丁寧な説明を徹底しています。

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