ふとした瞬間に目に入った、夫や妻のスマホの通知。「大好きだよ」「昨日は楽しかったね」――。心臓が止まるような思いをしたことがあるかもしれません。
現代において、不倫や浮気の証拠として最も多く挙げられるのが「LINE(ライン)」のトーク履歴です。
しかし、ここで冷静になる必要があります。「LINEで親密なやり取りをしている」という事実だけで、法的な慰謝料請求や離婚が認められるのでしょうか?
実は、裁判所が認める「不貞行為(ふていこうい)」の証拠としては、LINEの内容によって「決定的な証拠」になる場合と、「ただの怪しい会話」として退けられる場合に大きく分かれます。
本記事では、慰謝料請求を成功させるために知っておくべき、LINE証拠の「証拠能力」の境界線、裁判で勝てる会話内容の具体例、そして法的にリスクのあるNGな証拠収集方法について、徹底的に解説します。
そもそも「不貞行為」の証拠とは何か?
まず大前提として、日本の法律(民法)における「不貞行為」の定義を理解しておく必要があります。ここを誤解していると、「こんなに酷いLINEがあるのに慰謝料が取れない」という事態に陥ります。
法律上のゴールは「肉体関係の証明」
裁判所が認める不貞行為とは、原則として「配偶者以外の異性と自由な意思に基づいて肉体関係(性交渉)を持つこと」を指します。
つまり、「手を繋いでデートをした」「毎日『愛してる』とLINEした」「二人きりで食事に行った」だけでは、道徳的には裏切りであっても、法律上の不貞行為(肉体関係)とは断定されにくく、高額な慰謝料請求の根拠としては弱くなります。
したがって、LINEを証拠として使う場合の最大のミッションは、「トークの内容から、肉体関係があったことを推認(すいにん)できるか」という点に尽きます。
「プラトニック不倫」の扱いは?
肉体関係がない、いわゆる「プラトニックな関係」の場合、離婚原因にはなり得ても、不貞行為としての慰謝料請求は困難か、認められても数万〜数十万円程度の低額になるケースがほとんどです。
ただし、肉体関係の直接的な記述がなくても、「宿泊を伴う旅行」や「ラブホテルへの出入り」を示唆するLINEがあれば、肉体関係があったと強く推測されるため、証拠能力は格段に上がります。
決定打になるLINE vs 役に立たないLINEの境界線
では、具体的にどのような会話が証拠として有効なのでしょうか。証拠能力の高さによって3つのレベルに分類しました。
【レベル高】単体で「不貞の証拠」になり得る会話
これらがあれば、言い逃れはほぼ不可能です。スクリーンショットや動画で確実に保存しましょう。
- 性行為の感想や具体的な描写
「昨日の〇〇(性的な行為)最高だったね」「相性が良すぎて離れられない」など、行為があったことを前提とする会話。 - ホテルへの滞在を示すやり取り
「今、ホテルの部屋に着いたよ」「〇〇ホテル、予約しておいたから」「お風呂一緒に入ろう」など。 - 裸や性器の写真の送り合い
性的な画像と共に、「また早く会いたい」等のメッセージがあれば決定的です。 - 妊娠や避妊に関する話題
「生理が遅れているかも」「ゴム持っていくね」といった会話。
【レベル中】他の証拠と組み合わせれば有効な会話
これら単体では「ふざけていただけ」「ただの仲の良い友達」と言い逃れされる可能性がありますが、GPS情報やレシートなど他の証拠と合わせることで強力な武器になります。
- 愛情表現
「愛してる」「ずっと一緒にいたい」「妻(夫)とは別れるから待ってて」
※これだけでは「心の浮気」と主張されるリスクあり。 - 頻繁な密会・デートの約束
「次は〇日に会おう」「終電逃しちゃったね(泊まりとは書いていない)」 - 自宅への招待
「今日、妻が実家に帰ってるから家においでよ」
※家に入った事実は証明できても、何をしたかまでは不明瞭とされる場合も。
【レベル低】証拠としては弱い会話
怪しいですが、これだけで慰謝料請求をするのは時期尚早です。
- 単なる食事の誘い、業務連絡に混じった雑談。
- パートナーへの愚痴(「妻とうまくいっていない」など)。
- ハートマークの多用(親密度は示せますが、不貞の証明にはなりません)。
LINE証拠の正しい保存方法:スクショだけでは危険?
決定的なLINEを見つけても、保存方法を間違えると「捏造だ」と反論されたり、デジタルデータとして消滅してしまうリスクがあります。確実な保全方法を実践してください。
1. 「スクロール動画」が最強の保存法
スクリーンショット(静止画)は、画像編集アプリで簡単に偽造できてしまうため、裁判で「これは捏造された画像だ」と争われることがあります。
そこで推奨されるのが、「相手のスマホ画面を、自分のスマホで動画撮影しながらスクロールする」方法です。
- 指で画面を動かしている様子が映るため、編集の余地がなく、信用性が極めて高い。
- トークの流れ全体を切れ目なく保存できる。
2. 静止画(写真・スクショ)で撮る際の必須ポイント
動画が撮れない場合は静止画になりますが、以下の点に注意してください。
- 相手の名前・アイコンを表示させる:
トーク画面だけでなく、相手のプロフィール画面(アイコンと登録名が表示された画面)も必ず撮影してください。トーク上の名前は自由に変更できるため、「どのアカウントとの会話か」を特定するためです。 - 日時を入れる:
いつの会話かわかるよう、トーク履歴の日付部分も含めて撮影します。 - 前後の文脈を残す:
性的な発言の部分だけを切り取るのではなく、前後の会話の流れも含めて保存します。
3. 「トーク履歴の送信」機能は慎重に
LINEにはトーク履歴をテキストファイルとして送信する機能がありますが、これを使うと相手のスマホに送信履歴が残ってしまい、バレるリスクがあります。また、テキストデータは改ざんが容易なため、証拠価値は動画や写真より劣ります。あくまで補助的な手段と考えてください。
絶対にやってはいけないNGな証拠収集方法
証拠欲しさに暴走すると、あなたが法律を犯してしまい、逆に訴えられたり、せっかくの証拠が裁判で使えなくなったりする可能性があります。以下の行為は「違法収集証拠」となるリスクが高いです。
1. 不正アクセス禁止法違反(パスワードの突破)
夫や妻のスマホにロックがかかっている状態で、勝手にパスワードを推測して入力し、ログインする行為は、たとえ夫婦間であっても「不正アクセス禁止法違反」になる可能性があります。
また、相手のLINEアカウントを勝手に自分のPCやタブレットでログイン(同期)して監視する行為も同法違反であり、刑事罰の対象となります。
ロックがかかっていない(放置されていた)スマホを勝手に見る行為は、刑法上の犯罪(不正アクセス)にはなりません。ただし、民法上の「プライバシー侵害」には該当する可能性があります。
裁判実務では、「ロックされていないスマホを見た程度のプライバシー侵害であれば、不貞の証拠としての価値を優先し、証拠採用する」という傾向にあります。
2. スパイアプリの無断インストール
相手のスマホに遠隔操作アプリ(ケルベロスなど)を無断でインストールし、LINEや位置情報を監視する行為は、「不正指令電磁的記録供用罪(ウイルス供用罪)」等の犯罪に問われる可能性が高く、絶対に行ってはいけません。
このような極めて悪質な方法で入手した証拠は、裁判所が「違法収集証拠」として排除(証拠として採用しない)する可能性が高まります。
3. クローンiPhone・LINEの乗っ取り
以前は可能だった「クローンiPhone」などの手法は、現在セキュリティ強化によりほぼ不可能です。無理に行おうとすれば不正アクセスになります。
LINE証拠をどう活用するか?交渉と裁判の戦略
証拠が揃ったら、いきなり相手に突きつけるのではなく、戦略的にカードを切る必要があります。
ステップ1:自白を引き出す材料にする
LINEの内容が「レベル中(状況証拠)」止まりの場合、それを決定打にするには「本人の自白」が必要です。
「このLINE見たんだけど、どういうこと?」と問い詰め、会話を録音しながら「ごめん、実は一度だけ…」等の自白を引き出せれば、それが最強の証拠になります。
ステップ2:内容証明郵便でプレッシャーをかける
不倫相手に慰謝料を請求する場合、まずは「内容証明郵便」を送ります。この際、手紙にLINEの画像を添付することはできませんが、文章中で内容を引用します。
「貴殿は、令和〇年〇月〇日のLINEメッセージにおいて、私の夫に対し『昨日のホテル良かったね』と送信しており、不貞行為があったことは明白です。」
このように具体的に指摘することで、相手に「言い逃れできない証拠を握られている」と認識させ、早期の示談(支払い)に応じさせる効果があります。
ステップ3:他の証拠と組み合わせて外堀を埋める
LINEだけでなく、以下の証拠と組み合わせることで、「不貞の事実」をより強固に証明できます。
- Suica/PASMOの履歴、ETC履歴:LINEで「会おう」と言っていた日に、実際にその場所に移動している記録。
- クレジットカード明細・レシート:ホテルやレストランの利用履歴。
- 探偵の調査報告書:ラブホテルに出入りする決定的な写真。お金はかかりますが、LINEが弱い場合の切り札となります。
よくある質問(Q&A)
まとめ:LINEは「入口」の証拠。詰めを誤らないために
LINEは、不倫の事実を知るきっかけとしては非常に優秀ですが、法廷で戦うための「完全な証拠」としては、内容次第で強度が大きく変わります。
- 「肉体関係」が推認できる言葉があるかどうかが勝負の分かれ目。
- 証拠保存は「動画スクロール」または「日時・相手特定ができる静止画」で。
- 不正アクセスやスパイアプリなどの違法行為は絶対に避ける。
- LINE単体で弱い場合は、GPSや探偵などの合わせ技、あるいは「自白」で補強する。
感情的になって、LINEを見た瞬間に相手を問い詰めてしまうと、その場でトーク履歴を削除され、証拠隠滅を図られるのがオチです。
まずは泳がせて証拠を積み重ね、言い逃れできない状態を作ってから、内容証明郵便などの正式な手段で請求を行うのが、最も賢明な戦い方です。判断に迷う場合は、手持ちのLINEが証拠として通用するか、行政書士や弁護士などの専門家に一度見てもらうことをお勧めします。

