時効援用通知書の書き方ガイド|借金の支払い義務を法的に消滅させるための必須項目

「昔の借金の請求書が突然届いた」「聞いたこともない債権回収会社から『法的手続きに移行する』という手紙が来た」
何年も、場合によっては何十年も前の借金について、忘れた頃に連絡が来るとパニックになってしまうものです。

しかし、ここで絶対にやってはいけないのが、「慌てて電話をする」ことや「とりあえず1,000円だけ振り込む」ことです。その行動ひとつで、本来なら払わなくて済んだはずの借金が、法的に復活してしまう恐れがあるからです。

借金には「時効」があります。そして、その時効を成立させるためには「時効援用通知書」を送る手続きが必要です。

この記事では、借金の支払い義務を法的に消滅させるための「時効援用」の仕組みと、絶対に失敗できない通知書の書き方、必須項目について専門的な視点で解説します。

この記事の要点
  • 借金がチャラになる「時効援用」の条件(5年・10年)
  • 自動的には消滅しない!「援用」が必要な理由
  • 時効援用通知書に記載すべき5つの必須項目
  • 一発アウト!時効が失敗する「債務承認」のリスク

1. 借金の時効とは?「5年」経過していても自動的には消えない

まず大前提として、借金の時効は、時間が経てば勝手に成立するものではありません。ここが刑事ドラマなどで見る時効との最大の違いです。

時効が成立するための2つの条件

借金の消滅時効を完成させるには、以下の2つのハードルを越える必要があります。

  1. 一定期間が経過していること:
    • 消費者金融、クレジット会社、銀行からの借入:最終返済日から5年
    • 信用金庫、住宅金融支援機構、個人間の借入など:最終返済日から10年
    • 過去に裁判を起こされ、判決が確定している場合:確定日から10年
  2. 「時効を援用します」と相手に伝えること(時効の援用):
    債務者(借りた人)が債権者(貸した人)に対し、「時効期間が過ぎたので、時効の利益を受け取ります(だから払いません)」と意思表示をすることを「援用」と言います。

つまり、どれだけ長い年月が経っていても、あなたが「援用します」と伝えない限り、借金は法的に残り続け、債権者は請求し続けることができるのです。

2. 書くだけで借金が消える?「時効援用通知書」の書き方と必須項目

時効を援用するための意思表示に、決まったフォーマットはありません。しかし、言った言わないのトラブルを避けるため、必ず「内容証明郵便(配達証明付き)」で送るのが実務上の鉄則です。

通知書には、以下の情報を漏れなく記載する必要があります。

① 通知人(あなた)の情報

現在の住所と氏名を記載します。もし、借金をしていた当時の住所や姓(旧姓)が現在と異なる場合は、特定をスムーズにするために「(旧住所:〇〇〇〇)」と併記することをお勧めします。

② 被通知人(相手方)の情報

請求書を送ってきた債権者の住所と会社名、代表者名を記載します。
※元の借り入れ先(例:A消費者金融)から、債権回収会社(例:Bサービサー)に債権が譲渡されている場合は、現在の債権者(Bサービサー)宛に送ります。

③ 債権(借金)の特定

どの借金について時効を援用するのかを明確にします。請求書や督促状が手元にある場合は、そこに書かれている情報を書き写します。

  • 契約番号(会員番号):不明な場合は生年月日などで代用することもありますが、番号があると確実です。
  • 契約日・借入日:わかれば記載します。
  • 当初の債権者名:債権譲渡されている場合は、「譲渡人 〇〇株式会社」と記載します。

④ 時効援用の意思表示(最重要)

ここが通知書の核となる部分です。以下のような文言を記載します。

「上記の債権について、最終弁済期から既に消滅時効期間(5年)が経過しております。
つきましては、私は貴社に対し、消滅時効を援用しますので、その旨通知いたします。
今後は、私に対する請求および連絡を一切行わないよう申し入れます。」

難しい法律用語を並べる必要はありませんが、「時効を援用する」という言葉は必ず入れてください。

3. これをやったら一発アウト!「債務承認」による時効の更新

時効援用通知書を送る前に、絶対に確認してほしいことがあります。それは、直近で「債務の承認」をしていないか、という点です。

時効期間(5年など)が過ぎていたとしても、債務者が「借金があることを認める行動」を取ってしまうと、その瞬間に時効はリセット(更新)され、またゼロから期間をカウントし直しになってしまいます。これを「時効の更新(中断)」と呼びます。

やってはいけないNG行動リスト

債権者は、時効にかかっていることを知った上で、わざと債務承認をさせるための罠を仕掛けてくることがあります。

  • 1円でも返済する:「利息だけでも」「1,000円だけでも」と言われて支払うと、全額について支払い義務を認めたことになります。
  • 「支払猶予」を願い出る:「今は払えないから待ってほしい」「分割払いにしてほしい」と電話で伝えることは、借金の存在を認める行為です。
  • 和解書や確認書にサインする:アンケートと称して返済計画を書かせたり、減額案を提示してサインさせようとするケースがあります。

もし請求書が届いても、絶対に業者に電話をしてはいけません。まずは冷静に「最終返済日はいつか」を確認することが最優先です。

4. 時効援用が成功した後の「信用情報(ブラックリスト)」はどうなる?

時効援用を検討している方が一番気にするのが、信用情報(いわゆるブラックリスト)の扱いです。

JICC(日本信用情報機構)の場合

消費者金融系が多いJICCでは、時効援用が成功すると、その情報自体が「該当なし(削除)」となるケースが一般的です。つまり、借金の履歴そのものが消えるため、綺麗な状態に戻ります。

CIC(シー・アイ・シー)の場合

クレジットカード系が多いCICでは、時効援用が成功すると、「完了」という情報が登録されます。「貸し倒れ」ではなく、正規の手続きで終わったという意味での完了ですが、完了から5年間は履歴が残るのが原則です。
ただし、延滞情報(異動情報)がついたまま「完了」となるため、審査上は不利になる可能性がありますが、延滞中のまま放置するよりは遥かにマシな状態になります。

5. 自分やる?行政書士に頼む?リスクとコストの比較

時効援用通知書は自分で作成して送ることも可能です。しかし、リスクもあります。

自分でやるリスク(セルフ援用)

  • 時効期間の計算ミス:「5年経った」と思っていたら、実は途中で裁判を起こされていて「10年」に延長されていたケース。この場合、藪蛇(やぶへび)になり、督促が激化します。
  • 書き方の不備:債権の特定が曖昧で、無効だと主張されるリスク。
  • 精神的ストレス:業者とのやり取り窓口をすべて自分でこなす必要があります。

行政書士に依頼するメリット

  • 確実な調査:ご自身の記憶が曖昧な場合、信用情報機関(CIC/JICC)の開示請求の手続きからサポートできます。
  • プロ名義の通知書:「行政書士」の職名が入った内容証明を送ることで、業者は「下手な対応はできない」と判断し、スムーズに処理が進みます。
  • 代理作成:面倒な書類作成や郵便局への発送手続きをすべて丸投げできます。

時効援用に関するQ&A

時効援用に失敗したらどうなりますか?

支払い義務が残ります。
時効期間が足りなかったり、債務承認をしてしまったりして援用が失敗した場合、借金は消えません。その場合、債権者からの請求が再開されます。分割払いの交渉(任意整理)など、別の債務整理の方法を検討する必要があります。

裁判所から「訴状」や「支払督促」が届きました。時効援用できますか?

まだ間に合います!ただし急いでください。
裁判を起こされたとしても、その裁判の中で「時効を援用します」と主張すれば、時効は成立します。しかし、無視して放置すると、相手の言い分通りの判決(支払い命令)が出てしまい、時効はそこから10年間に延長されてしまいます。届いた書類に対して、期限内に適切な「答弁書」や「異議申立書」を提出する必要があります。

携帯電話料金や奨学金も時効になりますか?

原則としてなります。
携帯電話の未払い料金や、日本学生支援機構の奨学金も5年(または10年)で時効にかかります。ただし、奨学金の場合は「返還期限が到来した分」から順次時効になるなど計算が複雑な場合があり、また保証人がいるケースも多いため、慎重な対応が必要です。

まとめ:過去の借金と決別し、新しい生活をスタートさせるために

何年も前の借金について請求が来ると、「後ろめたい」「怖い」という気持ちから、思考停止してしまいがちです。しかし、時効制度は法律で認められた正当な権利です。
放置していても解決はしませんし、間違った対応(電話など)をすれば、消せるはずの借金を一生背負うことになりかねません。

「時効援用通知書」というたった一通の手紙が、あなたの生活を一変させる可能性があります。
ご自身のケースが時効の条件を満たしているか不安な方、書類作成に自信がない方は、専門家である行政書士にご相談ください。過去を清算し、安心して眠れる夜を取り戻しましょう。

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執筆者情報

執筆者の顔写真

深沢文敏

内容証明専門家・行政書士

行政書士登録番号:第14130403号

一部上場企業を退職し独立、事務所を開設。内容証明郵便の作成支援において10年以上の実績を持ち、年間200件以上の相談に対応。特に男女関係、金銭トラブル、契約解除などビジネス法務に関する内容証明作成を得意とする。素早い対応と分かりやすい説明そして的確なアドバイスで、多くの依頼者の悩みを解決に導いている。

→ 深沢文敏のプロフィール詳細を見る

参考資料・情報源

本記事の執筆にあたり、以下の公的機関、法令、および公的サービスの情報を参照しています。法的手続きの詳細や最新の運用については、各公式サイトをご確認ください。

  • 法務省:民法(債権法)改正について
    2020年4月の民法改正により、消滅時効の期間(原則5年)に関するルールが変更されています。借入時期によって適用される法律が異なるため、公的な解説を確認することが重要です。
    https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_001070000.html
  • e-Gov法令検索:民法(第145条 時効の援用)
    「時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない」と定めた条文です。通知書を送る法的根拠となります。
    https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089
  • 日本郵便:内容証明
    時効援用通知書を送付する際の標準的な手段である「内容証明郵便」の利用方法、および「配達証明」のオプションについて解説されています。
    https://www.post.japanpost.jp/service/fuka_service/syomei/index.html
  • 株式会社シー・アイ・シー(CIC)
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※本記事は、上記の法令、公的機関の情報、専門書籍等を参考に執筆されていますが、個別の事案に対する法的アドバイスではありません。具体的な問題については、専門家にご相談ください。

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