「今月入るはずの工事代金が振り込まれていない……」
「元請け社長に電話しても『施主からの入金が遅れているから待ってくれ』と言い訳ばかりされる」
建設業界、特に一人親方や中小工務店にとって、売掛金の未回収は死活問題です。材料費や外注費、職人の人件費は先行して支払っているため、入金が1ヶ月遅れるだけで黒字倒産の危機に直面することさえあります。
現場での信頼関係を大切にするあまり、「強く言うと次の仕事が来なくなるかも」と我慢していませんか?しかし、支払いを渋るような会社と付き合い続けても、あなたの会社が疲弊するだけです。
この記事では、建設業法や民法の知識を武器に、未払い問題を解決するための「最強の内容証明作成術」を解説します。単なる請求書ではなく、その後の裁判所手続き(支払督促)まで見据えた、相手が言い逃れできない論理構成をお伝えします。
- 建設業特有の「口約束」「追加工事」トラブルへの対抗策
- 元請けが嫌がる「建設業法違反」の指摘テクニック
- 支払督促で勝つために内容証明に書くべき必須項目
- 「施主が払わないから払えない」という言い訳を封じる法律論
1. なぜ建設業で未払いが起きるのか?口約束と「建設業法」の武器
建設業界では、いまだに「口約束」や「簡単な見積書だけ」で工事が進むケースが少なくありません。特に追加工事が発生した際、「やっといて。後で精算するから」という指示だけで動き、後になって「そんな金額は聞いていない」と揉めるのが典型的です。
しかし、こうした業界の悪しき慣習に対し、法律(建設業法)は下請業者を手厚く保護しています。
建設業法第19条:書面での契約義務
建設業法では、工事の請負契約を結ぶ際、必ず法定事項を記載した書面(契約書)を交付しなければならないと定めています。これは追加工事も同様です。
もし元請けが契約書を作らずに工事をさせ、その結果代金で揉めているなら、元請けは「建設業法違反」を犯していることになります。
「施主から入金がない」は通用しない
よくある「施主がお金を払ってくれないから、お前にも払えない」という言い訳。これは法的に全く通用しません。
あなたと元請けの契約は、施主と元請けの契約とは別物です。元請けは施主からの入金の有無にかかわらず、あなたに対して支払い義務があります(特定建設業者の場合はさらに厳しく、原則として引渡しから50日以内の支払いが義務付けられています)。
2. 「支払督促」を見据えた内容証明の戦略的作成術
内容証明を送っても無視された場合、次は裁判所を通じた「支払督促」や「少額訴訟」を行うことになります。その際、内容証明の文面が「決定的な証拠」として機能するように作成するのがプロのやり方です。
戦略1:工事の「完了」と「引渡し」を証明する
未払い業者が裁判でよく使う反論が「工事が終わっていない」「欠陥があるから払わない」というものです。
これを封じるため、内容証明には以下の事実を明確に記載します。
- いつ工事が完了したか
- いつ元請けが現場確認(検収)をしたか
- すでに物件が施主に引き渡され、利用されている事実
「貴社は令和〇年〇月〇日に本件工事の完了を確認し、引渡しを受けております」と明記することで、後出しのクレームを防ぎます。
戦略2:追加工事の根拠を示す
契約書がない追加工事分については、指示があった事実を積み上げます。
「令和〇年〇月〇日の現場定例会議における貴社担当〇〇氏の口頭指示、および同日のLINEでの指示に基づき施工した追加工事分(金〇〇万円)についても……」と具体的に書くことで、単なる勝手な工事ではないことを主張します。
戦略3:建設業法違反の指摘と行政指導の示唆
相手が建設業許可業者である場合、最も恐れるのは「行政処分(営業停止など)」です。
「本件未払いが続く場合、建設業法違反(書面交付義務違反、不当に低い請負代金の禁止など)の事実について、許可行政庁(国土交通省や都道府県知事)への通報も検討せざるを得ません」
この一文は、裁判を起こされること以上に強力なプレッシャーとなります。
3. そのまま使える構成案!最強の内容証明のロジック
では、実際にどのような構成で書くべきか、具体的な要素を解説します。
① 契約の特定(請負契約の成立)
「当職は、貴社に対し、以下の工事請負契約に基づき施工を完了し、引渡しました。」
工事名、現場住所、工期、請負金額(追加分含む)を正確に記載します。
② 請求の根拠(完了と未払い)
「上記工事代金のうち、金〇〇万円について、支払期日である令和〇年〇月〇日を経過しても入金が確認できません。
貴社は『施主からの入金がない』と主張されていますが、これは貴社の支払い義務を免れる正当な理由にはなり得ません。」
③ 期限の利益の喪失と遅延損害金
「つきましては、本書面到達後〇日以内に、下記口座へ元金および年3%の割合による遅延損害金を合算してお支払いください。」
④ 最終通告(支払督促・行政通報)
「万一、期限内にお支払いなき場合は、直ちに管轄簡易裁判所に対し支払督促の申立てを行うとともに、建設業法違反に関する公正取引委員会および監督官庁への申告を含めた法的措置に着手いたします。」
4. 内容証明で解決しない場合の「次の一手」:支払督促
内容証明を送っても相手が開き直った場合、すぐに「支払督促」に移行します。これは建設業の未払い回収と非常に相性が良い手続きです。
支払督促のメリット
- 書類審査のみ:裁判所に行かずに、書類を送るだけで審査されます。
- スピード解決:相手が2週間以内に異議を出さなければ、すぐに「仮執行宣言」が出され、強制執行(差し押さえ)が可能になります。
- 費用が安い:通常の訴訟の半額程度の手数料で済みます。
相手が異議を出してきたら?
相手が「異議あり」と反論してきた場合、自動的に通常の「民事訴訟」に移行します。
ここで重要になるのが、最初に送った内容証明郵便です。「こちらは正当な手続きを踏んで催促した」「相手は建設業法に違反している」という証拠が揃っていれば、訴訟になっても有利に進められます。
5. まだ工事中なら使える奥の手「商事留置権」
もし、まだ工事の最中で、建物があなたの占有下(鍵を持っている、資材があるなど)にあるなら、「商事留置権」を行使できる可能性があります。
「代金を払うまで、この建物(または完成部分)は引き渡さない」と主張し、現場を封鎖して鍵を渡さない権利です。
これは民法ではなく商法で認められた強力な権利であり、施主に対しても対抗できます。内容証明の中で「完済があるまでは、商法第521条に基づき本件建物を留置します」と宣言することで、早期回収を図る荒療治も選択肢の一つです。
建設業の未払い回収Q&A
LINEも立派な証拠になります。
「ここ変更して」「了解です、〇万円かかります」「OK」というやり取りがあれば、契約は成立しています。内容証明には、そのLINEの日時と内容を引用し、「貴社の指示に基づく施工であることは明白です」と主張しましょう。スクリーンショットの保存もお忘れなく。
一刻も早く動いてください。
倒産してからでは回収率はほぼゼロになります。まだ動いている現場があれば、そこの売掛金(元請けが施主から貰うお金)を仮差押えするなど、緊急の対応が必要です。内容証明を送っている時間がない場合もあるため、弁護士への即時相談をお勧めします。
「払わない元請け」との関係は切るべきです。
厳しい言い方ですが、代金を払わない会社は遅かれ早かれ倒産するか、トラブルを起こします。そんな会社の下請けを続けても、あなたの会社が連鎖倒産するリスクが高まるだけです。適正な取引をしてくれる新しい元請けを探すためにも、不良債権はきっちり処理しましょう。
まとめ:汗水流した対価は、1円たりとも諦めない
建設現場は過酷です。夏は暑く冬は寒い中で、職人たちが体を張って作り上げた建物。その対価が支払われないということは、職人たちの人生を否定されるのと同じです。
「待っていればいつか払ってくれる」という希望的観測は捨ててください。建設業法という強力な武器と、内容証明から支払督促へ続く法的なレールに乗せることで、回収の確率は格段に上がります。
ご自身での作成が難しい場合や、相手が悪質な業者の場合は、建設業法に詳しい行政書士にご相談ください。現場の苦労を知るプロとして、あなたの権利を守るための「最強の通知書」を作成します。

