「お気持ち、お察しします。大丈夫です、一緒に整理しましょう」
そこからは早かった。LINEでのヒアリング、やりとりの証拠提出、文章のドラフト作成……。
そして、3日後には私の名前で正式な内容証明郵便が完成していた。
『婚約に類する関係にあり、妊娠の事実を伝えたにもかかわらず一方的に連絡を絶ったこと』
『今後、医療費その他の対応を求める意思があること』
それは、“被害者の叫び”ではなく、“法的に伝える意思表示”だった。
ポストに投函されたあとの私は、少しだけ息ができた気がした。
もちろん、これで全てがうまくいくとは限らない。
でも「何もしない後悔」より、「行動したうえでの結果」のほうが、自分を納得させられる。
あの彼に、もう一度だけ、自分の言葉を“ちゃんとした形”で届けることができた。
届いた返事
内容証明を送ってから、1週間。正直、返事が来ることなんて期待していなかった。
でも、ある日突然、スマホに通知が届いた。
差出人:彼のフルネーム
件名は「内容証明の件について」──昔の彼の優しさを思い出させる文体ではなく、どこか他人行儀な書き出しだった。
「ご連絡ありがとうございます。突然の通知に驚いています」
「当方としても誠意を持って対応したいと思っていますが、直接のやり取りは避けたいと考えています」
「第三者を交えて話せる場があれば、前向きに検討します」
一字一句を何度も読み返した。
“誠意を持って対応したい”と言いながら、“直接のやり取りは避けたい”──都合のいい言葉にしか思えなかった。
でも、彼からの「無視」状態が終わっただけで、ずいぶんと胸が軽くなった。
やっと、“私一人だけの問題”じゃなくなった。
行政書士の先生に相談すると、冷静な返答が返ってきた。
「反応があるのは一歩前進です。交渉に移りましょう。」
交渉。そんな単語、恋愛に出てくると思わなかった。
でも今は、感情よりも“解決”が欲しい。
彼が仲裁者に指定してきたのは、共通の友人だったS君。
「中立で話を聞いてくれると思う」という彼の言葉、少しだけ不安がよぎる。
(私の味方じゃないかもしれない)
でも、それでもいいかな。
これ以上、放置されるより、誰かを交えた場で話せるほうがマシ。
当日、S君が間に入ってくれて、近くのカフェで三者面談のような話し合いが始まった。
彼は一応、謝った。「連絡を絶ったのは悪かったと思ってる」と。
でも、そのあとの言葉に、私は凍りついた。
「中絶の費用って、いくらくらいなの?」
まるで商品の価格を聞くような口ぶりだった。
「私の体は、モノじゃない」そう言いたかった。でも、言えなかった。
代わりに、行政書士の先生が作ってくれた明細書を静かに見せた。
- 通院費 28,000円
- 検査費用 19,000円
- 交通費・相談費用 8,000円
- 精神的慰謝料(交渉次第)
彼は一瞬、目を逸らした。そして言った。
「全部は無理だけど、半分くらいなら……」
私はその時、怒りよりも冷静だった。
「これは“交渉”だから、感情は持ち込まない」と自分に言い聞かせた。
その日、彼は5万円だけ振り込むことを約束し、後日、残額については再度相談するということで話し合いは終わった。
後味は悪かった。でも、なにも行動しなかった昔より、私は少しだけ前に進んだ。
結末は突然に──本当に“終わった”のは、どっちだったのか?
約束の日から数日後、彼から振込があった。
金額は「50,000円ちょうど」。メッセージもなければ、名義も変更されていた。
彼の存在は、銀行取引の記録にだけ残った。
それを見て私は、妙に静かな気持ちになった。
ああ、これが“終わった”ということなんだ。
でも、それからしばらくして──突然、彼からLINEが届いた。
「やっぱり話したいことがある」
驚きよりも、「今さら?」という気持ちが勝っていた。
でも私は、行政書士の先生に相談した上で、再びやり取りを再開することにした。
「ちゃんと向き合わなかったこと、今は後悔してる」
「慰謝料とか、責任とか……あのときは怖くて逃げた」
私の中に怒りはなかった。ただ、冷静だった。
「わかった。でも、もう恋人には戻らないよ」
「あなたといた時間を、なかったことにはしない。でも、同じ未来には進めない」
それが、私なりの“終わらせ方”だった。
その後、彼は残りの費用も振込んできた。明細書に書かれた金額すべて。
連絡はそれきりで、彼のSNSアカウントも削除されていた。
彼がどこで、誰と、どう生きているのかはわからない。
でも、もう私はそれを追いかけない。
結局、恋愛は「好き」だけでは成立しない。
責任、言葉、行動──それらが揃って、はじめて人と人は信頼できるのだと学んだ。
好きだった人が、ある日突然「敵」になる。
でも、私はこの一連の出来事を“人生の汚点”ではなく、“学び”として残したい。
【完結】
ご覧いただき、ありがとうございました。
「同じような経験をしている」「これからどう動けばいいかわからない」──そんな方に、少しでもヒントとなれば幸いです。
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