「納品したのに、請求書の期日を過ぎても入金がない」
「催促のメールを送ったが、返信がなく既読無視されている」
フリーランスや個人事業主として働いていると、こうした「未払いトラブル」に直面することがあります。特に相手が中小企業や個人の場合、「忙しいから」「資金繰りが厳しいから」といって、弱い立場のフリーランスへの支払いを後回しにされるケースは後を絶ちません。
丁寧なメールでお願いしても無視される場合、相手はあなたを軽く見ている可能性があります。
そこで必要になるのが、ビジネスライクな「警告」への切り替えです。
この記事では、未払い回収の最強のカードである「内容証明郵便」について、フリーランスが自分で作成・送付するための具体的なノウハウと、法的な背景(下請法・フリーランス新法)を解説します。
- なぜメールは無視され、内容証明は無視されないのか
- 「契約書なし」でも回収するための証拠固め
- 回収率を上げる内容証明の構成と「遅延損害金」の活用
- 忙しいフリーランスにおすすめの「e内容証明」とは
1. なぜメールは無視される?未払いクライアントの心理と「内容証明」の効果
あなたが送った丁寧な催促メール。相手が見ていないわけではありません。見ているけれど、「まだ払わなくていいや」と判断されているのです。
未払いクライアントの優先順位
資金繰りが苦しい、あるいは経理が杜撰な企業は、支払いに優先順位をつけています。
- 優先度・高:止められると困るもの(電気・水道・ネット)、うるさい債権者、法的措置をチラつかせてくる相手
- 優先度・低:文句を言わない外注先、関係が切れてもいいと思っているフリーランス
メールで「お忙しいところ恐縮ですが……」と書いているうちは、残念ながら「優先度・低」のボックスに入れられたままです。この優先順位を強制的に引き上げるツールが、内容証明郵便です。
内容証明が「効く」3つの理由
内容証明郵便は、単なる手紙ではありません。「誰が、誰に、いつ、どんな内容を送ったか」を日本郵便が証明する公的な文書です。
- 非日常的なプレッシャー:特殊な書式で、配達員から手渡しされる書面は、受け取った事務員や経営者に強烈なインパクトを与えます。
- 「本気度」の伝達:「手間と費用(約1,500円〜)をかけてまで送ってきたということは、この人は裁判も辞さない覚悟だ」と相手に伝わります。
- 証拠能力:将来的に裁判や少額訴訟になった際、「確実に催促した」という動かぬ証拠になります。
2. いきなり送って大丈夫?内容証明を送る前の最終チェックリスト
怒りに任せてすぐに送る前に、少しだけ準備が必要です。内容証明は強力な武器ですが、記載内容に誤りがあると効果が半減してしまいます。
① 証拠(契約の成立)は確保できているか
「契約書を交わしていない」というフリーランスの方も多いでしょう。しかし、契約書がなくても、以下のようなログがあれば「契約の成立」と「業務の完了」を証明できます。
- 仕事の依頼内容と金額が書かれたメールやLINE、Slackのスクショ
- 「発注します」「お願いします」という相手の承諾返信
- 納品した成果物のデータや、送信履歴
- 相手からの「検収完了」「修正指示」などのメール
これらをすべて保存・印刷しておきましょう。
② 相手の正確な住所はわかっているか
内容証明は相手に届かなければ意味がありません。名刺や会社のWebサイトに記載されている住所が、現在は使われていない(移転している)ケースもあります。
法人であれば国税庁の法人番号公表サイトで登記上の本店所在地を調べることができます。個人の場合、自宅住所が不明だと送付が難しくなりますが、電話番号や振込口座がわかれば、弁護士等に依頼して調査できる場合もあります(「弁護士会照会」など)。
③ 適用される法律の確認(下請法・フリーランス新法)
あなたの取引が「下請法」や「フリーランス・事業者間取引適正化等法(いわゆるフリーランス新法)」の対象であれば、回収はさらに有利になります。
特に2024年11月施行のフリーランス新法では、発注事業者に対し「期日内の支払い」が厳しく義務付けられています。相手が資本金のある程度大きい企業であれば、公正取引委員会への通報リスクを恐れるため、法律名を出すだけで支払いに応じる可能性が高まります。
3. そのまま使えるロジック!回収率を上げる内容証明の書き方・構成
内容証明には決まった書式(1行20文字以内など)がありますが、最も重要なのは「中身の構成」です。
単に「払ってください」と書くのではなく、論理的に逃げ道を塞ぐ構成にします。
構成要素1:契約事実と納品の確認
まずは事実関係を淡々と記述します。
「私は貴社に対し、令和〇年〇月〇日、Webサイト制作業務を受託し、令和〇年〇月〇日に納品を完了しました。」
これにより、相手が「頼んでいない」「納品されていない」と言い逃れできなくなります。
構成要素2:未払いの事実と請求金額
「しかしながら、支払期日である令和〇年〇月〇日を過ぎても、代金〇〇万円(税込)の入金が確認できておりません。」
ここで重要なのが、元金だけでなく「遅延損害金」についても触れることです。
商法や民法に基づき、支払いが遅れた日数分の利息を請求できます。たとえ契約書に記載がなくても、年3%(2020年4月以降の民法改正後)の法定利率で請求可能です。「遅延損害金を加算して請求します」と書くことで、事態の深刻さを強調できます。
構成要素3:法的根拠の提示
相手に「プロがバックにいるかもしれない」と思わせるため、法律用語を散りばめます。
「本件未払いは、民法第623条(報酬支払義務)および下請代金支払遅延等防止法に抵触するものです。」
※下請法の対象でない場合は民法のみで構いません。
構成要素4:期限の設定と最終通告
ここがクライマックスです。具体的なアクションを促します。
「本書面到達後、7日以内に下記指定口座へお振込みください。」
「万一、期限内にご入金もご連絡もない場合は、本意ではございませんが、少額訴訟の提起、および関係機関(公正取引委員会等)への通報を含めた法的措置に移行させていただきます。」
ポイント:「少額訴訟」という具体的ワード
単に「法的措置」と書くよりも、「少額訴訟」と具体的に書くほうが効果的です。
少額訴訟は60万円以下の金銭請求に特化した裁判で、1日で判決が出るため、フリーランスが使いやすい制度です。相手も「そこまで具体的に考えているのか」と警戒します。
4. 郵便局に行かずに発送!「e内容証明」がフリーランスに最適
忙しいフリーランスにとって、平日の昼間に郵便局の窓口に行くのは手間です。そこでおすすめなのが「e内容証明(電子内容証明)」です。
e内容証明のメリット
- 24時間いつでも発送可能:自宅のPCからWordファイルをアップロードするだけで手続き完了。
- 文字数制限が緩い:手書きだと厳しい文字数・行数制限も、Wordの設定を使えば簡単にクリアできます。
- 自動で封入・発送:印刷、封入、投函まで郵便局側がやってくれます。
利用には日本郵便のID登録が必要ですが、今後のためにも登録しておいて損はありません。
バーチャルオフィスを利用している場合の注意点
差出人の住所には、実際に連絡が取れる住所を書く必要があります。バーチャルオフィスやコワーキングスペースを利用している場合、書留の受け取り(相手が不在で返送された場合など)ができるか確認してください。
自宅住所を相手に知られたくない場合は、行政書士等の専門家に依頼し、専門家の事務所名義で発送してもらうのが安全です。
5. 送った後はどうなる?相手の反応別シミュレーション
内容証明を送った後の展開は、主に3つのパターンに分かれます。
パターンA:慌てて入金・連絡が来る(解決)
最も多いパターンです。「すみません、経理のミスでした」などと言い訳しつつ振り込まれます。この場合、入金が確認できれば解決です。
もし「分割払いにしてほしい」と言われた場合は、必ず「和解書(債務承認弁済契約書)」を作成し、書面で約束させてください。
パターンB:受取拒否・不在で戻ってくる
相手が居留守を使ったり、「受け取りません」と拒否したりするケースです。
内容証明が届かなくても、法律上は「相手の支配圏内に届けば到達したとみなす(到達主義)」という考え方がありますが、裁判では「付郵便送達」などの手続きが必要になります。
この段階まで来たら、迷わず次の法的ステップ(支払督促や訴訟)へ進むべきです。
パターンC:倒産・夜逃げ
会社がもぬけの殻だった場合です。残念ながら回収は困難になりますが、税務署に「貸倒損失」として申告することで、せめて税金上の損失を防ぐ処理が必要になります。
その際も、内容証明を送った記録が「回収努力をした証拠」として税務処理に役立ちます。
フリーランスの未払い回収Q&A
あります。
費用(約1,500円)と手間を天秤にかける必要はありますが、放置すれば「この人は払わなくても文句を言わない」と舐められ、次の被害を生む可能性があります。また、ご自身でe内容証明を使えばコストは最小限です。今後の取引のためにも「未払いは許さない」という姿勢を見せることが重要です。
納品後の「検収」が終わっているかが重要です。
納品後、相手が一度でもOKを出している、あるいは一定期間異議を唱えずに使用しているなら、後出しのクレームは法的に認められにくいです。内容証明には「〇月〇日に検収完了メールを受領しております」と反論を記載しましょう。
金額によりますが、メリットは大きいです。
数万円の回収だと足が出る可能性がありますが、数十万円以上の売掛金であれば、行政書士名義で送ることで回収率が格段に上がります。また、「相手と直接話したくない」「精神的ストレスを減らしたい」という方にとっては、費用以上の価値があるはずです。
まとめ:泣き寝入りは業界の悪しき習慣。プロとして回収を完遂しよう
「お金の話をするのは汚い」「波風を立てたくない」という日本的な美徳は、ビジネスの場では時として弱点になります。
あなたが提供したスキルや時間には、正当な対価が支払われるべきです。未払いを許すことは、あなた自身の生活を脅かすだけでなく、フリーランス業界全体への「買い叩き」を助長することにもなりかねません。
メールを無視された時点で、相手との信頼関係は壊れています。遠慮する必要はありません。
まずはe内容証明のアカウントを作り、最初の一通を作成してみましょう。その一歩が、あなたのビジネスと尊厳を守ることに繋がります。
もし「自分で書く自信がない」「相手が手強い」と感じる場合は、弊所の行政書士にご相談ください。あなたの状況に合わせた、最も効果的な回収プランをご提案します。

