親しい友人や親族にお金を貸したものの、約束の期日を過ぎても返済がない。それどころか、相手は忘れているのか、普通に遊びに行っている様子をSNSにアップしている……。
こんな時、多くの優しい人は「お金を返して」の一言が言えずに悩みます。「催促したら嫌われるのではないか」「お金にがめついと思われたくない」「今さら言い出しにくい」という心理的なブレーキがかかるからです。
しかし、何も言わずに待っていても、状況が好転することは稀です。むしろ、時間が経てば経つほど「なあなあ」になり、回収は困難になります。
この記事では、人間関係をできるだけ壊さず、かつ事務的にしっかりとお金を回収するための「通知書(手紙)」の活用法と、角を立てない伝え方のコツを解説します。
- 「請求=攻撃」ではない。関係を守るためのマインドセット
- LINEと法的通知の中間にある「お手紙」の有効性
- 相手を責めずに「事情」を伝える文章テクニック
- どうしても言えない人が「行政書士」を使うメリット
1. なぜ「返して」と言えないのか?関係を守るためのマインドセット
まず、「言いづらい」と感じる心理の正体を整理しましょう。多くの場合、「請求すること=相手を攻撃すること」だと無意識に感じているのではないでしょうか。
しかし、ビジネスの世界で考えてみてください。請求書を送るのは「攻撃」ではなく、単なる「事務処理」です。個人間のお金の貸し借りにおいても、この「事務的なスタンス」を持つことが、実はお互いの関係を守ることに繋がります。
曖昧さが一番のストレス原因
「いつか返してくれるだろう」と期待しながら待つ時間は、貸した側にとって大きなストレスです。相手の些細な言動(飲み会に行った、新しい服を買ったなど)にイライラしてしまい、結果的に心の中で相手を嫌いになってしまいます。
逆に、勇気を出して期限を区切り、事務的に処理を済ませれば、そのストレスから解放され、元のフラットな関係に戻れる可能性が高まります。
「お金の話をするのは、これからの関係を続けるためだ」と認識を変えましょう。
「忘れているだけ」という前提で接する
相手が悪意を持って踏み倒そうとしていると決めつけると、どうしても言葉にトゲが出ます。
「忙しくてうっかり忘れているだけだよね?」という性善説のスタンス(ふりでも構いません)で接することで、相手も「ごめんごめん、忘れてた!」とプライドを保ったまま返しやすくなります。これが「角を立てない」最大のコツです。
2. いきなり内容証明はNG?段階的なアプローチ手法
「内容証明郵便」は強力な手段ですが、親しい間柄でいきなり送りつけると、「宣戦布告」と受け取られ、人間関係は確実に破綻します。
関係性を維持したい場合は、以下のように段階を踏んでアプローチの強度を上げていくのが定石です。
ステップ1:LINEやメールでの「ソフトな」確認
まずは記録が残る形での軽いリマインドです。「返して」と直球で言うのではなく、「来週、入用があるんだけど、例の件どうなってるかな?」と、自分の事情を絡めて尋ねます。
ステップ2:普通郵便+特定記録での「通知書(手紙)」
LINEが既読スルーされる場合や、のらりくらりとかわされる場合は、紙の「手紙」を送ります。
ここでいきなり内容証明にはせず、普通の封筒で送るのがポイントです。ただし、「送った・送らない」の水掛け論を防ぐため、郵便局で「特定記録(相手のポストに投函された記録が残る)」オプションを付けます。
手紙というアナログな手段を使うことで、「LINEとは違う、改まった話だ」という空気を相手に察してもらう効果があります。
ステップ3:内容証明郵便(マイルドな文面)
手紙も無視された場合の最終手段です。ただし、内容証明であっても、書き方次第で「威圧的な督促状」にするか、「事務的な確認書」にするかは調整可能です。
3. 角を立てずに事務的に伝える!通知書作成の3つのコツ
では、実際にどのような文面で手紙や通知書を送ればよいのでしょうか。相手を追い詰めすぎず、かつ「払わなきゃ」と思わせるためのテクニックを紹介します。
テクニック1:「YOU(あなた)」ではなく「I(私)」で語る
「(あなたが)約束を破った」「(あなたが)返していない」と相手を主語にすると、どうしても非難めいた響きになります。
これを「私」を主語に書き換えます。
「(私が)今月の支払いに困っている」「(私が)いつ返済されるか分からず不安に思っている」
このように、自分の状況や感情を伝える形にすると、相手は責められている感覚が薄れ、「申し訳ないことをした」という良心に訴えかけることができます。
テクニック2:架空の「事情」を作って期限を切る
単に「早く返して」と言うと、こちらの都合を押し付けているように見えます。そこで、誰もが納得せざるを得ない「外部的な事情」を理由にします。
- 「冠婚葬祭が重なってしまい、急遽お金が必要になった」
- 「車の車検費用を来週までに振り込まなければならない」
- 「家族とのお金の管理を徹底することになり、貸付金を整理する必要が出た」
このように理由付けをすることで、「私が厳しいのではなく、状況的に仕方がない」という言い訳が立ちます。
テクニック3:「確認」という言葉を使う
「請求します」「支払ってください」という言葉は強い命令口調に聞こえます。
これを「入金予定日のご確認をお願いします」「現在の状況をご確認したくご連絡しました」という言葉に置き換えます。
やっていることは請求と同じですが、「確認」という言葉には「間違いがないかチェックする」というニュアンスがあるため、事務的な印象を与えることができます。
4. どうしても自分で言えない人は「第三者(行政書士)」を緩衝材にする
「どんなに工夫しても、自分からお金の話をするのは無理」「相手が年上や上司で言い出せない」という方もいるでしょう。
その場合は、あえて行政書士などの専門家に依頼し、専門家名義で通知を送るのも一つの手です。これが意外にも、関係を壊さないための「高等テクニック」になり得ます。
「先生に任せてしまったから」という言い訳
自分で請求すると「冷たい人だ」と思われるリスクがありますが、専門家を入れることで、自分は「板挟みになっている被害者」を演じることができます。
例えば、通知が届いて相手から怒りの電話がかかってきたとします。その際、こう答えるのです。
「ごめん、私も家計のことで税理士(または行政書士)さんから厳しく言われていて、お金の管理を全部任せることになっちゃったんだ。先生が事務的に手続きを進めているから、私の一存では止められないんだよ」
このように、回収のプロである専門家を「厳しい悪役」に仕立て上げることで、あなた自身への直接的な恨みを回避しつつ、相手には「プロが出てきたから払わざるを得ない」というプレッシャーを与えることができます。
5. トラブルを未然に防ぐ「借用書」の重要性
これからお金を貸す場合、あるいは回収後に改めて貸し借りをする場合は、必ず「借用書」を作成しましょう。
親しい間柄で契約書なんて……と思うかもしれませんが、逆です。親しいからこそ、甘えを断ち切るための書面が必要です。
借用書があれば、返済日や金額が明確になり、「忘れていた」「言った言わない」のトラブルがなくなります。
「お互いの信頼関係を形にするために、一筆書いておこう」と提案すれば、相手も拒否しにくいものです。
よくある質問(Q&A)
通知書(郵便)が有効です。
LINEブロックは「関わりたくない」という意思表示ですが、住所が変わっていなければ郵便物は届きます。ブロックされている状況であれば、これ以上「関係を壊さない」ことよりも「回収」を優先すべき段階かもしれません。特定記録郵便や内容証明郵便で、事務的に請求を行いましょう。
もちろんです。
金額の多寡にかかわらず、貸したお金は返すのが当然です。ただし、数万円の回収に行政書士や弁護士を使うと費用倒れになる可能性があります。まずはご自身で、丁寧な文面の普通郵便(特定記録付き)を送ることから始めるのがコストパフォーマンス的に最適です。
分割払いを提案し、合意書を作りましょう。
「ない袖は振れない」のが現実です。無理に一括請求して連絡を絶たれるよりは、「月々5,000円でもいいから」と歩み寄り、その代わりに「いつまでに完済するか」を書面(合意書)に残すことが重要です。この合意書があれば、時効の更新にもなり、将来的な回収の確実性が高まります。
まとめ:事務的な対応こそが最大の優しさ
お金の貸し借りは、放置すればするほど、貸した側も借りた側も不幸になります。貸した側は疑心暗鬼になり、借りた側は罪悪感(あるいは開き直り)であなたを避けるようになるからです。
勇気を出して「事務的な通知」を送ることは、決して冷たい行為ではありません。それは、曖昧な状態に終止符を打ち、お互いが次のステップへ進むための必要な手続きです。
「自分ではどうしても角が立たない文章が書けない」「相手との直接交渉がストレスだ」という場合は、弊所の行政書士にご相談ください。あなたの「関係を壊したくない」という想いを汲み取り、最適なトーンと表現で、解決に向けたサポートをいたします。

