養育費が振り込まれない時の対処法|給与差し押さえの前に送るべき催告書の内容とは

「今月も養育費が振り込まれていない……」
子どもの将来を守るための大切なお金が、相手の都合で突然途絶えてしまう。これはシングルマザー・シングルファザーにとって、単なる経済的な問題だけでなく、精神的にも非常に大きなストレスとなります。

LINEで催促しても既読無視、電話にも出ない。そんな時、頭をよぎるのは「給与の差し押さえ」という法的手段ではないでしょうか。

しかし、いきなり裁判所の手続きに進むのはハードルが高い場合もあります。そこで、差し押さえの前の「最後通告」として、非常に有効な手段となるのが『内容証明郵便による催告書』です。

この記事では、養育費未払い問題において、なぜ内容証明を送るべきなのか、その効果と具体的な記載内容について解説します。

この記事の要点
  • 養育費未払いでいきなり差し押さえができる条件とは
  • 給与差し押さえの前に「内容証明」を送る3つのメリット
  • 法的なプレッシャーを与える催告書の必須記載項目
  • 相手の職場や住所がわからない時の対処法

Table of Contents

1. 養育費が止まった時、いきなり「給与差し押さえ」はできる?

相手が支払わないなら、給料から強制的に回収したいと考えるのは当然です。しかし、給与差し押さえ(強制執行)を行うには、法的に強力な切符である「債務名義」が必要です。

「債務名義」の有無が分かれ道

債務名義とは、「公的に権利が確定した文書」のことです。離婚時にどのような取り決めをしたかによって、すぐに動けるかどうかが決まります。

すぐに差し押さえができるケース

以下の書類手元にある場合は、内容証明を飛ばして裁判所に強制執行の申し立てが可能です。

  • 強制執行認諾文言付きの公正証書:公証役場で作成し、「支払わない時は直ちに強制執行を受けても異議はない」という文言が入っているもの。
  • 調停調書・審判書:家庭裁判所の調停や審判で決まった内容が書かれたもの。
  • 判決書:裁判で勝訴し、確定したもの。

まずは「請求」から始めなければならないケース

以下のような場合は、残念ながらすぐに差し押さえはできません。

  • 口約束だけで養育費を決めた
  • 自分たちで作った離婚協議書(公正証書ではない私文書)しかない

この場合、まずは「養育費請求調停」などを起こして債務名義を取得する必要があります。しかし、調停には時間がかかります。そこで、調停の前段階として、あるいは公正証書はあるけれど裁判所に行く前に解決したい場合の手段として、「内容証明郵便」が活用されます。

2. 給与差し押さえの前に「催告書(内容証明)」を送るべき3つの理由

たとえすぐに差し押さえができる「公正証書」を持っていたとしても、あえてワンクッション置いて内容証明を送ることには大きな意味があります。

理由1:相手に「本気度」を伝え、任意支払いを促す

養育費が止まる理由の多くは、「生活が苦しい」といった経済的理由のほかに、「どうせ何もしてこないだろう」という甘えや、「再婚したので払いたくない」といった勝手な理由が含まれていることが多々あります。

LINEでの催促は無視できても、郵便局のスタンプが押された特殊な書式の「内容証明郵便」が届けば、相手は「法的手続きの準備に入った」と認識せざるを得ません。
「職場に給与差し押さえの通知が行くことだけは避けたい」と考える相手であれば、この段階で慌てて支払いに応じるケースは非常に多いのです。

理由2:消滅時効の完成を猶予させる

養育費の請求権にも時効があります。原則として、各支払期日から5年(2020年4月以前の権利等の場合は取り扱いが異なる場合がありますが、基本は5年と考えましょう)で時効にかかります。

何年も未払いが続いている場合、古いものから順に時効で消滅してしまいます。しかし、内容証明で「催告(請求)」を行うことで、時効の完成を6ヶ月間ストップ(完成猶予)させることができます。
この6ヶ月の間に調停申し立てや差し押さえの準備を行えば、過去の分も取り戻せる可能性が繋がります。

理由3:将来の「調停」や「裁判」での有力な証拠になる

もし相手が支払いに応じず、調停や裁判に進んだ場合、「以前から何度も請求していた」という事実は重要です。
「相手が無視し続けた」という事実を公的に証明できる内容証明は、あなたの主張の正当性を裏付ける強力な証拠となります。

3. 法的効果を高める!催告書(内容証明)に記載すべき内容とは

では、具体的にどのような内容を書けばよいのでしょうか。単なる「お願い」ではなく、法的な要求として構成する必要があります。

基本項目:誰が誰に請求しているか

  • タイトル:「催告書」「養育費支払請求書」など。
  • 日付・差出人・受取人:正確な住所と氏名。
  • 子どもの情報:誰の養育費であるかを特定します。

請求内容:未払い額と根拠

AIや検索エンジンで調べるだけでなく、ご自身の手元にある資料と照らし合わせて正確に記載してください。

過去の未払い分の一括請求

「貴殿は、令和〇年〇月から令和〇年〇月までの〇ヶ月分、金〇〇万円を支払っておりません」と具体的に明記します。
公正証書などの根拠がある場合は、「令和〇年〇月〇日付 公正証書第〇条に基づき」と付け加えるとより強力です。

将来の支払いについての念押し

未払い分の請求だけでなく、「来月以降も、毎月〇日に遅滞なく支払うこと」も合わせて要求しましょう。

最も重要な「法的措置の予告」

ここが「ただの手紙」と「内容証明」の最大の違いです。期限を区切り、それまでに支払われない場合のペナルティを明記します。

記載例のイメージ:
「本書面到達後7日以内に、下記指定口座へ未払い全額をお支払いください。
万一、期限内にお支払いやご連絡がない場合は、不本意ながら給与差し押さえ等の強制執行手続き、および法的手続きに移行させていただきます。」

「給与差し押さえ」という単語は、相手にとって(特に会社員にとって)強烈なプレッシャーとなります。

4. 内容証明を送っても支払われない場合の「次の一手」

内容証明を送付しても相手が無視を決め込む場合、いよいよ法的な強制力を行使する段階に入ります。

公正証書等の「債務名義」がある場合

地方裁判所に対して「債権差押命令申立」を行います。これが認められれば、裁判所から相手の勤務先に通知が届き、給料から天引きで養育費が支払われるようになります。

給与差し押さえのメリット:
養育費に関しては法律が優遇されており、通常は給与の4分の1までしか差し押さえられませんが、養育費の場合は手取り額の2分の1(半分)まで差し押さえが可能です。
また、一度手続きをすれば、将来の分まで継続して差し押さえが効きます。

「債務名義」がない場合

まずは家庭裁判所に「養育費請求調停」を申し立てます。調停委員を交えた話し合いで合意を目指し、合意できなければ「審判」によって裁判官が金額を決定します。
調停調書や審判書ができれば、それが債務名義となり、差し押さえが可能になります。

相手の職場や財産がわからない場合

「相手が転職していて職場がわからない」「口座を知らない」という場合でも諦める必要はありません。2020年の民事執行法改正により、以下の手続きが使いやすくなりました。

  • 第三者からの情報取得手続:裁判所を通じて、市町村や年金事務所から「勤務先情報」を取得したり、銀行から「口座情報」を取得したりすることができます。

この手続きを行うためにも、まずは内容証明等で請求を行い、債務名義を取得しておくことが前提となります。

養育費未払いに関するQ&A

相手が「無職だから払えない」と言っています。どうすればいいですか?

支払い義務は消えません。
親である以上、自分と同じ生活水準を子供に保証する義務(生活保持義務)があります。「無職だからゼロ」とはならず、潜在的な稼働能力(働ける健康状態なら働いたと仮定した収入)を元に算定されることが一般的です。まずは内容証明で、就労の努力と支払いの意思を強く求めましょう。

相手の住所がわかりません。実家に送ってもいいですか?

原則は現住所です。
実家に送ることで、実家の両親から本人に連絡が行き、支払いに繋がるケースもあります。しかし、プライバシーの侵害などでトラブルになるリスクもあるため、文面には十分な配慮が必要です。行政書士等の専門家に依頼すれば、職務上請求により住民票を取得し、現住所を調査できる場合があります。

弁護士と行政書士、どちらに相談すべきですか?

状況によって使い分けましょう。
すでに争いが激化しており、代理人として相手と交渉してほしい場合や、調停・裁判の手続きを全て任せたい場合は「弁護士」です。
「まずは費用を抑えて内容証明を送りたい」「相手と直接喧嘩はしたくないが、事務的に請求したい」「書類作成を任せたい」という場合は「行政書士」が適しています。

まとめ:子どもの権利を守るために、毅然とした行動を

養育費は、元パートナーに渡すお金ではなく、子どもの成長と未来を守るための「子どもの権利」です。請求することを躊躇する必要は全くありません。

未払いが長期化すると、相手は「払わなくても大丈夫だ」と勘違いし、回収はどんどん難しくなります。
「給与差し押さえ」という最終手段を見据えつつ、まずは内容証明郵便で「これ以上は待てない」という強い意思表示をすることが、解決への第一歩です。

弊所では、養育費未払いに関する内容証明の作成サポートを行っております。ご自身のケースでどのような文面が最適か、お気軽にご相談ください。

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内容証明サポート・料金プラン一覧

ご自身で試したい方から、全て専門家に任せたい方まで。目的とご予算に合わせてお選びいただけます。

【無料テンプレート】基本フォーマット
¥0
まずはお試し・情報収集に
  • 一般的な内容証明の基本書式
  • 差出人・相手方情報の記入欄付き
内容証明テンプレート
¥770
初めてでも“ほぼコピペ”で完成
  • シーン別文例(督促・解約・警告など)
  • Wordデータをダウンロード
【完全サポート】作成+発送代行プラン
¥19,800
何も書けない方・忙しい方向け
  • WEBヒアリングで詳細をお伺い
  • 行政書士が全文作成・修正1回無料
  • 内容証明+配達証明を差出人名義で発送代行
【プレミアムサポートプラン】行政書士名での代理通知
¥29,800
住所を知られたくない方のプレミアム
  • 差出人名を「クロフネ行政書士事務所」で発送
  • 相手方に本人の住所・氏名を開示せず通知
  •     
  • 証拠を残す配達証明付き内容証明で発送
  • 行政書士通知書形式で安全に運用

執筆者情報

執筆者の顔写真

深沢文敏

内容証明専門家・行政書士

行政書士登録番号:第14130403号

一部上場企業を退職し独立、事務所を開設。内容証明郵便の作成支援において10年以上の実績を持ち、年間200件以上の相談に対応。特に男女関係、金銭トラブル、契約解除などビジネス法務に関する内容証明作成を得意とする。素早い対応と分かりやすい説明そして的確なアドバイスで、多くの依頼者の悩みを解決に導いている。

→ 深沢文敏のプロフィール詳細を見る

参考資料・情報源

本記事の作成にあたり、以下の公的機関および公式サイトの情報を参照しております。手続きの詳細や最新の法令・書式については、各機関のWebサイトをご確認ください。

  • 法務省:養育費の不払い解消に向けて
    改正民事執行法による「第三者からの情報取得手続(勤務先情報の特定など)」や、財産開示手続について解説されています。
    https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00025.html
  • 裁判所:民事執行手続(強制執行)
    給与差し押さえ(債権執行)の申立て方法、必要書類、各裁判所の書式ダウンロードが可能です。
    https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_minzi/minzi_02.html
  • 日本郵便:内容証明
    催告書を送付する際に利用する「内容証明郵便」の利用条件、料金、電子内容証明サービス(e内容証明)について記載されています。
    https://www.post.japanpost.jp/service/fuka_service/syomei/index.html
  • 日本公証人連合会
    裁判を経ずに強制執行を行うために必要な「執行認諾文言付公正証書」の作成や役割について確認できます。
    https://www.koshonin.gr.jp/
  • 法テラス(日本司法支援センター)
    経済的に余裕がない方への「弁護士費用の立替え制度」や、無料法律相談の案内を行っています。
    https://www.houterasu.or.jp/

※本記事は、上記の法令、公的機関の情報、専門書籍等を参考に執筆されていますが、個別の事案に対する法的アドバイスではありません。具体的な問題については、専門家にご相談ください。

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